遺言能力が争われたケース
紛争の内容
兄Aと弟Bは、幼少の頃に父親を亡くし母親に育てられました。母親は、自宅の土地建物の他、数千万円の預貯金を有していましたが、90歳のときに病気のために亡くなりました。母親が亡くなった後、兄Aは弟Bから、母親が亡くなる約1か月前に公正証書遺言を作成していたことを知らされました。遺言の内容は、ほぼ全ての財産を弟Bに相続させるとの内容であり、兄Aは到底納得できません。兄Aは、弟Bに対して「母親は無くなる直前、アルツハイマー病に罹っていたのだから遺言などする能力は無い」と主張して紛争となりました。
紛争の経過
弟Bは、兄の主張に対して、「この遺言は公正証書遺言であり、公証人が有効と認めたものだ」として遺言は有効だと反論しました。結局、兄弟間での言い争いは治まらず、兄Aは弟Bに対して裁判(遺言無効確認の訴え)を起こしました。
訴訟においては、母親が亡くなる間際に入院していた病院における診療録一式が取調べられ、母親のアルツハイマー病は軽度であったことが確認されるなどしたため、裁判所は「遺言は有効」であるとして兄Aの訴えを棄却しました。
弁護士からのコメント
精神的な疾病等により判断力がない場合には遺言能力は認められず遺言書を作成してもその遺言書は無効となります。公正証書遺言は公証人が関与して作成される遺言ではありますが、公正証書遺言であるからといって必ずしも遺言能力が認められるとは限りません。公正証書遺言であっても遺言能力が欠けるため遺言は無効とされた裁判例も多くあります。遺言書を作成する際に遺言者が認知症等を発症しているケースにおいては、事前に十分な検討が欠かせません。遺言能力について後から紛争が生じることの無いよう予め弁護士等に相談のうえ対策を講じておくことが必要でしょう。また、遺言書の内容についても遺留分に十分に配慮するなど、できるだけ後々の紛争を予防する観点も必要かと思われます。