公正証書遺言を作成途中、故人となってしまった場合
事案の概要
入院中の方から、公正証書遺言を作成したいとの依頼を受けました。
病院に赴きましたところ、弱々しい字で、「自宅・・・○○(妹の名前)」「○○銀行○○万円・・・○○(妹の名前)」と記載したメモを見せていただきました。自らの死後、献身的な付添をしてくれた妹に全ての財産を相続させたいとのご意向でした。
付添の妹さんに確認しましたところ、医師の話ではご本人の病状は落ち着いているということでしたので、遺言内容を固めた上で、病院に公証人に来てもらう日程調整を行うことでお話をしました。
念のため、ご本人が記載したメモ書きにご署名・捺印していただいた上で、メモを封筒に入れ封をしていただきました。
しかし、翌日、ご本人は危篤に陥り、数日後、逝去されました。
残念ながら、公正証書遺言を作成することはできませんでした。
解決結果
妹さんから、ご本人の死亡の報告を受けましたので、お預かりしていたメモを妹さんに交付し、他の法定相続人にも連絡の上、家庭裁判所で検認手続きを行ってから開封するようお伝えしました。
ただし、妹さんには、同メモは、財産と名前のみが列挙された走り書きのような内容である上に、字が非常に弱々しいこと等から、ご本人が自筆したものか否かを争われる等、遺言として有効かは疑問がある(外の法定相続人に無効だと主張される恐れが十分にある)こともお伝えしました。
後日、妹さんより、他の相続人の方(お兄さんと弟さん)は、ご本人記載のメモの内容を尊重して、殆どの財産を妹さんが取得する内容で遺産分割協議が成立したとの連絡がありました。
弁護士のコメント
この事案では、妹さん以外の相続人の方々(お兄さんと弟さん)が、亡くなられたご本人の意思がメモに現れているのであれば、たとえ、遺言として有効でないとしても、故人の意思を尊重したいとの考えから、結果として、ご本人の意思を最大限に尊重した、遺産分割協議となりました。
しかし、このような解決はどちらかといえば稀なケースだと思います。
ご本人は1億円を超える遺産を残され、ご兄弟の法定相続分は数千万円に上るものでした。数千万円の遺産を取得できるチャンスがある場合、訴訟等をするか否かは別として、それなりの取り分を主張される方の方が多いと思います。
遺言の有効性に疑問がある場合に、遺言が無効であると争うことは何ら問題のないことですし、実際、自筆証書遺言の場合は、本人が記載したものでない場合や、意思能力のない状態で記載された場合等、不正に作成されることも少なくありません。
やはり、ご自分の財産を、法定相続分とは異なった割合で、または人に対して分け与えた場合には、元気な間に、熟慮した上で、公正証書遺言を作成しておくことが肝要です。
遺言を一度作成しても、新たな遺言を作成することで撤回したり、内容を変更することが可能ですので、あまり難しく考えすぎず、弁護士等に相談されてはいかがでしょうか。