先の遺言が作成された後,これと異なる内容の新しい遺言が作成され,後者の内容に沿って,遺産分割調停がなされたケース
相談前の状況
相談者(長男)の父は,長男の息子を養子縁組し,①長男,②長女,③長男の息子に対して,遺産分割方法を指定する内容の公正証書遺言を作成していた。
しかし,その後,養子縁組をしていない長女の娘を含め,①長男,②長女,③長男の息子,④長女の娘に,4分の1ずつ遺産を相続させるという内容の新しい遺言を作成した。
父が亡くなった後,長女はただちに遺言の検認手続をとり,協議を経ることなく,遺産分割調停を申し立てた。
相談後の状況
まず、遺言無効確認訴訟の提起を検討したが、新しい遺言は、遺言としての形式的・実質的要件を備えており、筆跡が父のものであることにも争いがなかった。また、作成当時の状況に照らしても、父が遺言作成を強要されたことの立証は困難と思われた。
そこで、遺産分割調停において、新しい遺言の有効性について意見を留めつつ、基本的には同遺言の指定割合に従い、具体的な分割方法について交渉を行った。
不動産の分割方法(現物分割か代償分割か、代償金額はいくらにするか)が主な争点となったが、最終的に、①相談者(長男)が居住している不動産は相談者が取得し、②他の不動産と有価証券を売却した代金、及び相続預金から、相手方(長女)が代償金を取得し、その残額を等分する、という内容で調停が成立した。
弁護士のコメント
遺産分割の方法には、①現物分割(遺産をそのままの形で分割する方法)、②代償分割(遺産の現物を取得した者が、取得しなかった者に対して相続分に対応する金銭等を支払う方法)、③換価分割(遺産を売却して金銭に換え、その代金を相続人が分割して取得する方法)があります。
本件では、②と③を組み合わせることにより、相談者の自宅不動産は確保しつつ、相続財産の範囲内で代償金をまかなうことができました。
もっとも、本件では、事前の協議が一切なされずに調停が申し立てられたこともあって、話し合いは難航し、調停成立までに相当の期間を要しました。調停の前に十分話し合いがされていれば、異なる展開もあり得たのではないかと考えさせられるケースでした。