相続Q&A

「[5]相続による権利及び債務の承継に関する改正」

質問内容

Q2:相続による権利の承継に関する改正について教えてください。

回答

1 制度の概要
 相続による権利の承継について定めた改正民法第899条の2の条文は次のとおりです。

(共同相続における権利の承継の対抗要件)
第899条の2  相続による権利の承継は,遺産の分割によるものかどうかにかかわらず,次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については,登記,登録その他の対抗要件を備えなければ,第三者に対抗することができない。
2 前項の権利が債権である場合において,次条及び第901条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては,当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは,共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして,同項の規定を適用する。

 相続人は,遺産分割や遺言などにより法定相続分とは異なる割合にて権利を承継することがありますが,法定相続分を超えて承継する場合,その超える部分については,次に掲げるような対抗要件を備えなければ,第三者に対して承継したことを対抗(主張)できません。法定相続分を超えない部分については,対抗要件を備えなくても,承継したことを対抗(主張)できます。
   ・不動産の場合:登記 民法第177条
   ・動産の場合 :動産の引渡し 民法第178条
   ・自動車の場合:自動車登録ファイルへの登録 道路運送車両法第5条
   ・債権の場合 :譲渡人の債務者に対する通知または債務者による承諾
           民法第467条

2 留意点
(1)本規定では,あくまでも相続債権者などの第三者との関係において対抗要件が必要となるのであって,他の共同相続人との関係において対抗要件は不要です。
(2)また,本規定は,相続による権利の承継を念頭に置いており,例えば相続人以外の者が遺贈を受けた場合(例:遺言にて「相続人以外の者に~の土地を与える」とされている場合)などには適用がありません。もっとも,実務上(判例上),遺贈の場合においても,遺贈を受けた者は,対抗要件を備えなければ第三者に対して権利承継を対抗できないとされています。
(3)債権の承継について,上記の対抗要件(譲渡人の債務者に対する通知)を備えようとする場合,債権を承継していない他の共同相続人が債務者に通知する必要がありますが,そのような通知は一般的に期待できません。そこで,本規定の第2項により,債権を承継した共同相続人が,遺産分割や遺言の内容を明らかにして通知することにより,対抗要件を備えることができるようになりました。
(4)本規定の第1項は,2019年(令和元年)7月1日以降に開始された相続について適用されますが,本規定の第2項は,同日以降に開始された相続だけでなく,同日以前に開始された相続であっても同日以降に上記(3)の通知がなされた場合には適用されるので注意が必要です。

3 改正の理由
 改正前民法のもとでも,遺産分割によって法定相続分を超える権利を承継した場合には,その超えた部分につき対抗要件が必要とされていました。しかし,遺言によって相続分が指定された場合(例:遺言にて「相続人Aにすべて相続させる」とされている場合),遺産分割方法が指定された場合(例:遺言にて「相続人Bに~の土地を相続させる」とされている場合)には,(法定相続分を超えた部分についても)対抗要件が不要とされていました。
 そこで,第三者の取引の安全の保護の観点から,いずれの場合についても対抗要件を備える必要があるというルールに統一されることとなりました。

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