遺産分割の事実上のやり直しが認められたケース
事案の概要
多くの田畑、森林を保有する旧家において、高齢の当主とその妻が相次いで亡くなった。その5名の子供たちは、地域の古くからの慣習にしたがって、長男が、金融資産も含めた全ての遺産を相続する内容で遺産分割協議を行った。
しかしながら、長男が直後に急死してしまったため、長男家族が、長男が相続した全ての資産を承継することとなった。長男家族は、その地域から遠く離れた都会に住んでいたため、田畑等の不動産には興味はなく、管理するつもりもないが、金融資産は全て承継すると主張している。
二男以下の4名の兄弟姉妹たちは、田畑が荒廃してしまうことを危惧して、田畑を譲り受けて管理したいものの、その管理費用を捻出するため、金融資産の承継を望んでいる。なお、二男も、遠方に居住してサラリーマン生活だったが、田畑とそれを管理できる経済的基盤を承継するのであれば、郷里に戻って、先祖代々の家と田畑を守って生活する決意をもっている。
当事務所は、二男以下4名の兄弟姉妹たちから相談を受けて、法的解決を目指して対応を検討した。
手続き
二男以下の4名の兄弟姉妹たちは、長男家族を相手方として、長男との遺産分割協議のやり直しを求めて、調停手続きを申し立てた。
長男家族は、共同相続人間の遺産分割において解除は不可能である(最判平成元年2月9日参照)と主張して、自分たちにとって荷物でしかない郷里の不動産を譲渡するものの、金融資産は譲るつもりはないと主張した。当初、調停委員も、上記最判に則り、遺産の再分割は不可との立場であった。
これに対し、当方は、本件で長男が資産を一括して承継したことは、法的には、他の兄弟たちから、家を承継することに伴う義務を負担する負担付き贈与を受けたものである、と主張し、短期間で長男が死亡したことで、負担が不履行となったことから、負担付贈与を解除する(最判53年2月17日参照)と主張して調停委員を説得した。
調停委員も、当方の見解に一定の理解を示し、長男家族を説得した結果、不動産だけではなく、金融資産についても相応の譲歩を得られ、調停が成立するに至った。
なお、調停の後、兄弟姉妹それぞれが承継した金融資産の全額を二男が預かる形になり、長男家族から譲歩を受けた金融資産の全てが、田畑の管理費用として使用されることとなった。
弁護士のコメント
共同相続人間の遺産分割について、一般的に、最高裁は債務不履行解除を認めていない(最高裁平成元年2月9日判決)と言われています。もっとも、この最高裁判決に対しては批判が強く、学説では、むしろ解除肯定説が大勢とされています。
一方で、最高裁は、共同相続人間において、一人が一括して資産を承継する旨の合意がなされた事案において、遺産分割協議と評価可能であるにもかかわらず、相続分の譲渡が負担付贈与によってなされたとの法的構成を採用し、当該負担の不履行を理由とする債務不履行解除を認めています(最高裁昭和53年2月17日判決)。
形式的には遺産分割協議であったとしても、後者の債務不履行解除が可能なケースに当たらないのかどうか、具体的なケースに応じて詳細に検討することが重要です。